台湾と『中華民国』の関係、台湾有事を語るための基礎知識(2022年8月19日台湾通信webradio)

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2022年8月19日台湾通信webradio 【台湾と『中華民国』の関係、台湾有事を語るための基礎知識】     今回は「台湾と『中華民国』の関係、台湾有事を語るための基礎知識」と題して、山田充郎さんと討論してみたいと思います。   日本では、台湾有事が論議されることが多くなりました。このところ、中国大陸が台湾に対して軍事演習を行っていますが、日本では、いまにも台湾と中国大陸との間で戦争が起きるのではないかといったイメージが広がっています。   しかし、こうした論議の中で抜け落ちているのは、台湾は「中華民国」という政治体制の下にあるということです。   台湾・中国と、対比させられますが、これは実は間違いです。これが大きな誤解の元になっています。 対比するのであれば、台湾に対するのは中国大陸です。台湾はあくまでも地域名です。   台湾の政治のリーダーは総統と呼ばれていますが、総統というのは中国語で大統領の意味です。日本では現在の蔡英文総統を、台湾総統と紹介することが一般的ですが、実はそのようなものは存在しません。台湾総統ではなく、中華民国総統が正しい名称です。   そこで、山田充郎さんのお話しをお聞きいただく前に、まず一般的な説明をします。   「中華民国」とは、1911年の辛亥革命で清朝政府が倒れた後、1912年に中国大陸に成立した政権です。 1949年、中国大陸で中華民国の政権政党だった国民党が、内戦の末に共産党に敗れると、中華民国政府は国民党と共に台湾に逃れてきます。   それ以降、現在まで中華民国は台湾に存在し続けています。ただし、統治範囲は台湾本島とその周辺の島々に限られています。中華民国と国交を持つ国はわずか14カ国に減っています。   しかし、中華民国は今も憲法で、中国大陸を含めた全中国をその対象としています。現在、中国大陸を統治する中華人民共和国の存在を認めていません。   つまり、中華民国にとって、憲法上、中国は中華民国という「1つの中国」なのです。台湾と中国は対立概念ではなく、「1つの中国」の中に台湾と中国大陸があるという構図になります。これが、現在、台湾で施行されている中華民国憲法の基本的な考え方です。   この「1つの中国」を原則とする点で、中華民国は現在の中華人民共和国と同じ考え方ということになります。ただ、その主体が異なり、互いに認めていないということは、国民党と共産党の内戦の延長です。   「中華民国」という用語は、歴史用語以外で、日本のメディアには出てきません。これは、日本と中華民国との間に国交がないことが原因です。つまり、現在の共産党政権に対する一種の忖度です。日本は「中華民国」を国として認めていません、ということです。   しかし、これを台湾という地名で表現した場合、台湾という独立国があるような誤解を招きます。中台関係という用語は、台湾にも中国大陸にも存在していません。中国語では「両岸関係」、つまり台湾海峡両岸の台湾と中国大陸との関係ということなのです。ここに、日本人とは根本的な認識の相違があります。   そもそも、台湾と中国を同列で並べることは、共産党政権にとってはタブーです。台湾と中国を並べると、台湾と言う国と中国という国があるということになり、台湾独立を認めたことになるからです。つまり、共産党政権に忖度して「中華民国」を使わず、「台湾」を使うことで、共産党政権にとってのタブーを犯すという、矛盾を生んでいるわけです。   今のところ、共産党政権側はこの状況に対して何も言っていませんが、台湾と中国を同列に並べたために、世界の航空会社を始めとする民間企業に対して、共産党政権から台湾の呼び方を変更するようプレッシャーがかかったことは記憶に新しいところです。   もっとも、共産党政権にとって、かつての敵は蒋介石・国民党の「中華民国」でしたから、「中華民国」がタブーで地域名の「台湾」を使うことはむしろ歓迎されていたという経緯はあります。ただ、現在の敵は台湾独立ですから、「台湾」という呼び名の方に敏感に反応します。「中華民国」に関する論議はほぼ棚上げとなっています。   日本のメディアなどがそのことを知っていて台湾・中国と対比させているのなら確信犯ですが、それを知らずに使っているなら台湾と中国大陸の関係に対する基礎知識がないということになります。   現在の台湾の民進党政権は、台湾独立を目指していると位置付けられています。民進党はその党綱領で台湾共和国の建国を目指すと明記しており、「1つの中国」を基礎とする中華民国を廃して、中国から独立した台湾共和国を目指しています。台湾独立党綱領と呼ばれる党綱領は、今も変更されていません。   しかし現実には、民進党はこれまで、中華民国体制の変更を試みたことはありません。中華民国体制を変更するには、憲法を改正する必要がありますが、これまでそうした動きはありません。蔡英文総統は、現状維持を唱えており、中華民国体制を変更しないことを表明しています。「1つの中国」を基礎にした中華民国体制を変更した場合、共産党政権はこれを台湾独立の行動と認識し、台湾に対してどのような行動を起こすのか想像できるわけです。   ところで、中華民国体制が基礎とする「1つの中国」の原則を利用したのが、「92年コンセンサス」という考え方です。これは、中国大陸との関係を大きく改善した国民党の馬英九政権(2008~16年)が、中国大陸との交流の基礎にした考え方です。中国大陸の共産党政権もこれに乗り、「92年コンセンサス」を双方の交流の基礎だと位置付けました。   「92年コンセンサス」とは、言葉だけを見ても、何のことか分かりません。その曖昧さが論議を呼ぶことになりますが、むしろこの白黒をつけない曖昧さというのが、現在の台湾と中国大陸との関係に必要なようです。   「92年コンセンサス」というのは、台湾と中国大陸の窓口団体が1992年に会談を持った時に達成した「1つの中国」に関するコンセンサスだと言われているものです。これについて、国民党は「1つの中国、各自解釈」と位置付けています。つまり、台湾側はこの「1つの中国」を中華民国だと解釈する。中国大陸側がこれをどう解釈しても構わない、つまり中華人民共和国だと考えてもかまわないということになります。「1つの中国」を台湾と中国大陸が勝手に各自で解釈するという考え方です。相手がどう解釈しようと関与しないというわけです。中華民国憲法はもともと「1つの中国」に基づいていますから、台湾側としても矛盾はないわけです。   中国大陸の共産党側は、「92年コンセンサス」は「1つの中国」に関するコンセンサスだと言っているだけで、「1つの中国、各自解釈」という台湾の国民党側の説明を認めていませんが、否定もしていません。つまり、暗黙の了解として、中華民国を認めもしないが、否定もしないということになります。   一方、1992年当時、台湾の政権を担当していた当時の国民党の李登輝総統は、そのようなコンセンサスはなかったと否定しています。現在の台湾の与党・民進党も、コンセンサスの存在を否定しています。   「92年コンセンサス」を拒否することは、「1つの中国」を否定するわけですから、台湾独立を意図していることになります。   現在の台湾と中国大陸との間の対立は、蔡英文総統がこの「92年コンセンサス」を拒否したことから、始まっています。「92年コンセンサス」で大きく進展してきた馬英九政権時代の台湾と中国大陸との関係が、対立を深めることになるのは、共産党政権が、国民党政権時代と同じように「92年コンセンサス」を認めるよう求めているのに対して、民進党・蔡英文政権がそれを拒否していることが原因です。   なぜ、民進党・蔡英文政権が「92年コンセンサス」を認めないのか。それは、それが「1つの中国」の内容を含むからです。台湾独立を求める人たちが支える民進党としては、「1つの中国」を認めることは台湾が中華人民共和国の一部だと認めることになると考え、これを受け入れることができないわけです。   台湾独立を進めるには、「1つの中国」に基づいた中華民国体制を倒すか、変更する必要があります。しかし、民進党・蔡英文政権は、「1つの中国」を認めずに、中華民国体制を継続する、いわゆる現状維持という方針を採用しています。ここに大きな矛盾が生じます。これが、現在の台湾内部で政治や社会が安定しない大きな原因となっています。そして、中国大陸との関係を悪化させる原因にもなっています。   以上、「中華民国」について、概要を説明しました。   「中華民国」というキーワードを通じて台湾、そして台湾と中国大陸の関係を見ると、非常に錯綜していることが分かります。   この「中華民国」を理解しなければ、現在の台湾を理解することはできないと断言できます。現在、日本の政府もメディアも、「中華民国」という現存する用語を避けています。これが、台湾の問題の本質、そして台湾と中国大陸との対立という現状の本質を分かりにくくしています。   では「中華民国」とは何か。それは、成立してからこれまで、同じものだったのではない。常に変化している。いくつもの中華民国がある。こう指摘するのが山田充郎さんです。   「中華民国」とは何か。現在の台湾にとって中華民国とは何か。1回で終わる話ではありませんが、その入り口として、今回、山田充郎さんと話し合ってみたいと思います。   山田充郎さんは、大阪府出身。少年時代から漢字・漢文と放送に興味を持ってこられました。大手証券会社に勤務しながら、放送史を研究。退職後、今は研究に専念しています。台湾の国際放送のリスナー歴は間もなく60年に達するという方です。これほど長く台湾そして中華民国を見つめてこられた方は珍しいのではないでしょうか。   「中華民国」に関する論議、今後も山田充郎さん、さらにはより多くの方たちと進めていきたいと思っています。   【山田充郎(やまだ・みつお)さんプロフィール】 1948年、大阪府出身。少年時代より漢字・漢文と放送に興味を持つ。大手証券会社に勤務しながら、放送史を研究。退職後、研究に専念。台湾のラジオ国際放送のリスナー歴は間もなく60年に達する。   ※作品 海峡両岸対日プロパガンダ・ラジオの変遷第01回 「中国の放送と国民政府(大陸時代)の対日放送(1923~1949)」 https://shukousha.com/column/proparadio/6205/   海峡両岸対日プロパガンダ・ラジオの変遷第04回 「自由中国之声の成立と初期の日本語放送(1949~1970)」 https://shukousha.com/column/proparadio/6320/   海峡両岸対日プロパガンダ・ラジオの変遷第07回 「外交環境の変化と日本語放送の脱皮(1971~1980)」 https://shukousha.com/column/proparadio/6772/   海峡両岸対日プロパガンダ・ラジオの変遷第09回 「1980年代の台湾と日本語放送の変貌(1981~1990)」 https://shukousha.com/column/proparadio/6984/   担当:早田   このエピソードへのコメントを教えてください https://open.firstory.me/user/ckzuv0igg0edi0924qk6rd3e7/comments Powered by Firstory Hosting

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