038.映画「すずめの戸締まり」(2022年)喪失を抱えて、なお生きろ

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監督:新海誠
「感想」

星を追う子どもでは、孤独だった主人公の状況を救ってくれた(初恋)の相手を救うために旅をする話。
すずめの戸締りも、直接的に孤独ということは描かれないが、孤独だった主人公の状況を救ってくれた(初恋)の相手を救うために旅をする話。
とどちらも共通した出発点だ。

一方は、死者を蘇らすということが目的で、もう一方は、何かに代わってしまた物体(椅子であり要石)から人間に戻すということが目的だ。

星を追う子供では、死者が生き返るための条件として、生きた人間が必要である。つまり、死ぬことで死者が蘇る。死者を蘇らせたい森崎は、一緒に旅をしてきたアスナを選ぶ。すずめの戸締りでも同様の選択を迫られるが主人公は躊躇なく自らの犠牲を選ぶ。

どちらも旅の途中で、生きることの美しさに触れる。旅の途中で出会った人たちの日常が滅亡してしまってまでも愛する人をとるのか。このあたりは、天気の子のエンディングと比較すると面白い。「天気の子」はあくまでも人間が起こした環境破壊の負の遺産を若い世代に押し付けてそれを解決する必要があるのかということで物語は終着する。一方、「すずめの戸締り」は抗うことができない天災がモチーフだ。

天災からは逃れることはできないが、逃れる方法を知っていたら、かけがえのない日常を暮らす人を助けずにはいられないだろう。それも関係性が深ければ深いほどその思いは強くなる。でも、自分の最も愛する人がその代償になるのならば、私が変わりにその選択を受け入れる。その覚悟が美しい結果となる。

「星を追う子ども」の終盤で「喪失を抱えて、なお生きろと聞こえた。それが人に与えられた呪いだ。」「でもきっと、それは、祝福でもあるんだと思う。」というセリフがある。

「すずめの戸締り」では、災厄をもたらす「後ろ戸」を閉じるための“閉じ師”は閉めるときに、その土地に刻まれた思い出をエネルギーに変えて閉じることが可能となる。それは、土地への鎮魂でありその土地にかけられた呪いでもある。なぜ呪いが生まれるのか。それは人間が喪失を抱える生き物だからだ。つまり、抗えない死があるからだ。

生きたものにとって死は永遠の喪失だ。しかし、喪失がもたらされるのは思い出される死者との対話があるからだ。それを聞くことができるのは死者ではない。生きているものだけが唯一できることで、それはまさに祝福でもある。  

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038.映画「すずめの戸締まり」(2022年)喪失を抱えて、なお生きろ

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