中野ブロードウェイ地下で58年間商いを続ける「フナリヤ」 #20

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「ちょっとインタビューの間、うろちょろしていてください」
ディレクターの松重にそう言われたので、構成スタッフの筆者は「うろちょろ」を余儀なくされました。場所はサブカルの聖地、中野ブロードウェイの地下に拡がる商店街。
今回、訪れた先は中野ブロードウェイ開業当初から店を構えている珍味、乾物のお店フナリヤさん。そのご主人である坂本さんにお話を伺えることになったのです。諸々の理由を加味した上で「ここは一人で行った方が良い」という判断を松重は下し、同行する筆者に対し冒頭の指示を直前になり与えたのでした。
さて、遠くで松重がフナリヤのご主人にインタビューする声を聴きながら、致し方なくこの「放送後記」をすぐ近くのベンチで書き始めます。大の大人は急に言われても理由なく「うろちょろ」できないものです。なにせ仕事で来たのですから。自分を納得させるだけの大義名分が欲しいものです。
インタビューが行われている間は、その周囲の様子に関する記録を残すことにしましょう。
「じゃあもう六十年近く、フナリヤさんはあるのですか」
いつにも増して松重の声が地下商店街によく聞こえます。なぜでしょうか。そもそも、地下商店街が閑散としているのです。思えば、フナリヤさんの周囲の商店もシャッターを下ろしていました。どうやら水曜日は定休日の商店が多いようです。降ろされたシャッター群が、松重の声を反響し、増幅。
もともと築地に勤めて入られたご主人の坂本さんが恩人であり、中野ブロードウェイの生みの親でもある実業家にして医学博士でもあった宮田慶三郎氏との運命的な出会いの様子がほぼ「館内放送」レベルで響いております。
ベンチの前には「ソフトクリーム」と「うどん」というサービスエリアの良いところだけを煮詰めたような「デイリーチコ」があるのですが、半分だけシャッターが下ろされ「今日、うどん側はお休みです」という紙が貼られ、ベンチの壁側には「アイスクリームを食べないでください」という注意書きが。買ったら最後、食べ歩くしかないのです。これを買えば「うろちょろ」できる言い訳が成立しますが、「うろちょろ代」が経費になるとは到底思えません。詰みです。勝手に。
視線を上にずらすと「このベンチはお年寄り専用です。」という注意書きが。迂闊でした。人こそいませんでしたが、原則としてここに居座ることはよくないのです。それ即ち「うろちょろ」しなくてはならないことを意味します。
「居場所がないので致し方ない」という大義名分を提げ、堂々と地下商店街をうろちょろしてみれば、結句のところ閑散。中心にある鮮魚店や青果店はお休み。ただ、奥に進めば、占い処、アジア食品店、お茶屋さんなど、実に渋いお店は営業しており、さらに向こうにはこれまた実に渋い乾物屋さんが見えて来ました。若い男が、なんだか店主に、マイクを向けています。というか、松重です。フナリヤさんです。東京閾値です。あっという間に一周してしまいました。
「今はね、お店同士の繋がりは、あんまり、ないね」
何とも世知辛いお話が聞こえてきます。地下商店街の横の繋がりもお店の入れ替わりとともに弱まっているのです。そして筆者もまた今、誰とも繋がっておりません。何だ、「うろちょろしていろ」とは。無性に寂しくなります。泣きそうです。今泣いたら中年の嗚咽がシャッターで増幅されます。当然、マイクは拾うでしょう。事故です。
慌てて二階に駆け上がり、「まんだらけ」で『ウルトラセブン』に登場するペガッサ星人を二体購入。彼らもまた、居場所がない寂しくうろちょろした宇宙人でした。さて、インタビューが終わったと見える松重がこちらに向かって来きます。果たして「ペガッサ代」を経費で落とせるか、どうか。その閾値を探ります。
文責:洛田二十日(スタッフ)

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